最近のカシワ問題。


アートディレクターという肩書の、佐藤可士和さんの影響なのだと思うのですが──。
最近「ディレクションをやりたい」という子が増えてきて、相談とかでもよく聞きます。
でも、「ディレクション」という言葉が曖昧すぎて、何を指していってるのかもよく分からないのですが、言ってる本人たちも具体的に把握していないみたいな感じです。具体的に何がしたいのか尋ねてみても、全く考えていないような答えが返ってきます。
そんなん僕に相談されても。
ヒアリングしてみると見えてくるのは、「自分は実際の作業をしないで、考えて指示するだけのお仕事」がしたいと言ってるようですね。
なるほどと思うのは、制作スキルに自信が無い子に多い傾向にあるからです。
確かにそれっぽいモヤモヤしたことを伝えれば、後は誰かが完成品を考えて作ってくれる、できるできないというスキルの判断や難しいことを勉強しなくてもよい、というのは、楽そうですが・・・。
っていうか、そんな立場が許されるのはお金を払って仕事を依頼してくださる「お客様」だけだ!
そして言ったこと完璧に作ってくれる「スーパー作業員」が実際にいたら逆にその人材欲しいわ!


実際のディレクション業務には、クライアントとの交渉術や信頼関係も必要なはずですが、そこはあんまり彼らの望む仕事内容に含まれていないのも不思議といえば不思議。
WEB制作会社の多くは、組織図を見ても細かく分業化されています。
でもデザイン事務所とかデザイン中心に業務するところでは、分業化しているところは、ほとんど無いと思います。
デザインの本質? ともいうべきところなのかもですが。
おそらく分業化すればするほど、コンセプトやビジョン・想い・哲学がブレやすくなるからだと思います。
それくらい共有化は難易度が高く、そして面倒。
クリエイティブの難しいところは、ゼロから1を創る部分なのですが。
この、最初のたったの「1」という同じものを、全員が共有するのが難しい、と最近はよく思います。
これがプロジェクトが進んで「100」になってくれば、いろんな角度から全員が把握しはじめるのではないでしょうか。
完成品が誰の目にもよく見えてきて、簡単に全体像が把握できるから。
「イノベーション」や「デザイン思考」という言葉をブームにしたデザインコンサル企業「IDEO」では、プロトタイプを作っては壊し、作っては壊しというやり方(デザイン思考)で、プロダクトの完成度を高めていくそうです。
マーケティングを仕事にする人は、PDCA サイクルとの類似と組織体制について言及するところなのですが、クリエイティブからの観点では、そこには注視しません。
さらっと流していまいそうですが、クリエイターが驚くところは「壊せるものができている」というところ。
作り始めた時には、既に完成品に近い評価できるものができているのです。
これが1人のクリエイターが1人で進めたプロジェクトなら、ブレないのは簡単なこと。
これをチームで、「考える人」と「作る人」に分かれて分業化してやるには、企画と実装力が足りなくなったタイミングでサイクルが止まるので、デザイン思考という進め方はやりにくくなります。
デザイナー同士が集まって、考えて作っていくプロダクトデザインを主とするデザイン事務所なら可能に見える方法論で、習得しなければならない技術が多様に亘る WEB 業界では、組織的に成熟しているところは相当少ないのではないでしょうか。
デザイン思考で、デザイナー中心でサイクルを回そうとすると、技術的な知識が足りなくて実現できるかどうか分からなくて止まる。
逆に、システム開発者にサイクルを回させようとすると、クライアントの良い印象を受けられないであろう幼稚なデザインを実装して止まる。
プランナーにサイクルを回させれば、技術部分の実現性の理解が足りなくて各担当者に技術背景部分を丸投げして、各担当の方向性がブレて止まる。
WEB業界では、これらの各部署の問題をまとめてうまくサイクルを回すのがディレクション。
完成品に近いものを自ら作って提示して、各担当者が哲学やコンセプトをブレさせないようにするお仕事なのだと思います。

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