広告デザイン制作の中でよく言われていたのが、「デザイナーは相手の会社の社長さんより会社に詳しくならなければならない」。
超乱暴な言い方で絶対にそんなことありえないのですが、対象の企業をよく観察し、詳しくなり、その情報をデザインに落とし込むという仕事を短く表している言葉です。要は、それくらい相手を調べて調べ尽くせということですね。
僕がメーカーのインハウスデザイナーになって分かったことは、新入社員ですら大学で学んだ専門スキルを持って入ってくるため自分より既に技術分野の知識に長けており、デザイナーは新入社員にすら敵わないという事です。特にメーカーでは研究職もあるため専門用語や物理学や数字も当たり前に会議や会話で飛び交うところなので、ステージの違いに戸惑いさえ感じると思います。
誰だよ、社長より詳しくなれとかいうふざけた格言作ったやつ。人生やり直して来いよ。
専門スキル以外の、会社の雰囲気とか「うちは社員みんな仲良いです」みたいな薄っぺらい情報とか「これからブランド作っていきましょう」という情報取得を放棄した提案案件なら、上の格言の通りに作ることもできるのですが、専門性を活かし、製品の特長を技術という面で販促していくには、やっぱりどこまで専門技術・知識に詳しくなれるかというのは本当に課題になります。外注している企業と内製している企業では販促に差が出てくると思います。規模が小さい企業では社内にデザイン部署を置くコストまでは必要ないと思うのですが、デザインシンキングに長けた担当がいるいないで違いは出てきます。
つまり、「どのようにデザイナーに伝えるか」という能力があれば、外注先のデザイナーに指示し連携して最適な販促ツールを作り出していけることになります。有能な人材というのは本当に重要ですね。
社外依頼したデザイン制作でも、師弟モデルでのデザイン手法というのがあります。
多くの企業でドイツのマイスター制度に似た OJT の手法を取り入れていると思うのですが、それと似たようなやり方です。
調査対象を「師匠」に見立て、自分が「弟子」として、師匠の技を盗むのです。
師匠である企業に、弟子であるデザイナーが「弟子入り」し、師匠のやり方を見て自分も真似てみて、分からないことがあれば聞き、同じものを作ってみようとするというやり方になります。
これによりインタビューや見学では分からなかった視点で、相手の言葉が足りなかった部分や、相手が当たり前として説明しなかった部分の情報を取得できることになります。
英語では、contextual inquiry、日本語では文脈的質問法という言われ方でまとめられており、デザインだけでなくマーケティング業界でも知られている手法です。
見えてくる部分は、語られなかった情報だけではありません。
相手が不思議に思わなかった問題点を指摘できたり。
プロセスに意味を見出すことができたり。
外野の視点から、違う付加価値を見つけることもできます。
クリエイターはマルチな才能があれば、それだけ多くの異文化をもたらすことができます。
専門性の高い職人が掘り下げて突き詰めていくのに対し、クリエイターは可能性を広げていく感じですね。
ありとあらゆる異なる専門分野に飛び込んでみる、苦手な分野をあえてやってみる、そんな勇気が意外に引き出しを広げていきます。
積極的に、逃げ出さずに、いろんなドアを攻めてみるのも、自分のためになりますね。
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