デザイン・ディスコースの記憶は終わってない。


経営学者ロベルト・ベルガンティが提唱したイマドキのデザイン哲学には「デザイン・ディスコース」というのもあります。
ベルガンティって誰だよ! という人はまずは下記の過去記事から。
■デザイン・ドリブン・イノベーション
http://yasukawa.hamazo.tv/e5375363.html
ディスコースについてはフランス語なので業界人か人類社会学以外の人は馴染みがないはずですが、デザイン的には「対話」「言説」と訳される概念です。
ディスクール – Wikipedia
Apple の開発方式がイノベーションだと言われていますが、要は顧客の求めるものを作らない、というメーカーの開発哲学というか。Apple の場合は少し変わっていて、欲しいと言った瞬間を逃すと、開発した時間が過ぎた間に、顧客はもう次のものを欲しいと言っているから、それに振り回されないようにするためらしいですけど。
要は、使っている人の感想を待つのではなく、その感想が来ることさえも自分たちで予想した開発を前もって行うという、ことでしょうか。
予言者みたいな作り方ですね。


まぁ、こんな予言でのオカルト開発ができれば大した問題では無いですが、凡人が同じような仕事をするなら体力にモノを言わせた爆速なクリエイティブが、それを可能にすることもできます。
顧客が「欲しい」と言った直後に爆速で創ってしまえば、それは可能ですね。
そして体力を擦り減らすことさえも嫌がるヘタレな凡人でもイノベーションを可能にする! という夢のプロセスが「デザイン・ディスコース」というのがベルガンティ先生の主張(やや改変)。
デザインでいえば、僕たちは全世界のあらゆる専門家でもないのだけど、専門家であることを求められます。
クライアントの会社パンフレットを作る仕事をするならば、そのクライアントよりも会社に詳しく。
エイズ撲滅のキャンペーンをするなら、誰にでも説明できるようにエイズという病気について誰よりも詳しく。
天才の感性にとってはチョロいことなのですが、凡人には日々勉強でしかないのです。
ただ、僕らの周囲には、自分よりもさらに優秀な(はずの)人たちがいます。
ありとあらゆる方面からの対話によって、自分の認識を拡張していき、最終的なデザインに落とし込んでいくのです。
「ディスコース」という「対話」や「言説」という意味は、言葉をそのまま受け取るということではありません。
その言葉が発せられた状況全体(活動や行為)を理解するということになります。
机の前に座ってアンケート用紙を読むということではなく、実際に参加するということです。
クリエイティブに関しては責任を持つために「当事者であれ」というのはよく言われるのですけど、当事者ではあるけれど、全体を把握していない当事者というのがほとんどの人だと思います。
世の中は天才だらけではなく、クリエイターの条件である「全部できる」というジェネラリストという存在は少ないです。
ジェネラリストではない多様性の無い凡才たちがクリエイティブを行うならば、部分的であっても情報を共有することで理解の拡張を行わない限り、意見はただのその場しのぎのつまらない意見でしかありません。
デザイン・ディスコースの優秀な参加者になることで、成果物の完成は近づきます。
「コンセプト」を掲げることは、デザイン・プロセスのひとつですが、このキーワードひとつでプロセスが進行するということもよくあります。的外れじゃない限り。

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