アール・ブリュット展、膠着した芸術の特異点


先週末から、浜松市美術館で「アール・ブリュット展 -生(き)の芸術-」という企画展が始まりました。
「アール・ブリュット」とはフランス語で、英語では「アウトサイダー・アート(outsider art)」といいます。
フランス人画家ジャン・デュビュッフェが提唱し、イギリスのロジャー・カーディナルが英語に翻訳しました。
アウトサイダー・アート – Wikipedia
その意味は、正式な美術教育を受けず、芸術の伝統的な訓練を受けておらず、名声を目指すでもなく、既成の芸術の流派や傾向・モードに一切とらわれることなく自然に表現した作品のことです。
なのですが。
「アール・ブリュット展」というと、大抵は「知的障害者・精神病患者による作品」の展示会を指してしまっています。
精神障害者のアートという風に、本来の意図から外れてしまっているわけで、それが差別的な意味になってしまっているのが残念です。
実際にはアカデミックに誰に教えられることもなく、孤独に作品を作り続けるような人の作品も含んでいます。
 


■企画展 アール・ブリュット展 -生(き)の芸術-|浜松市美術館(公式)
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/artmuse/exhibition.htm#brut
さて、僕の知り合いにも知的障害者の小学生がいます。
その子は出産時に母親のお腹の中で「へその緒」をぐるぐる巻きにしてしまったらしく、酸素欠乏症に近い症状だったために、少し脳に障害が残ってしまったそうです。
非常にきれいな顔をして、生活も健常なのですが、「善悪の概念」だけが欠如しているのです。
会話していると正義の無い質問をされることもあり、世の中がドラマのように勧善懲悪でないリアルを辛辣に感じます。
昨年、「絵画の才能があるのでは?」と、その子が描いた年賀状を見せてもらいました。
年賀状は辰年のために「竜」でした。
その竜の絵の訴えかけるような圧倒的なイメージに、息をのむ思いをしました。
実際には「絵」ではなく、彫刻のように掘ったものに対して、そこに質感の異なる紙で素材感を出しつつ立体的になるように重ねて貼り、紐やシールで竜のヒゲや角、ウロコを表現したものを、インクを塗ってスタンプのように紙に押し付けて印刷したものだそうです。
その時、不思議に思ったのは、「なんで竜の絵を描けたんだろ?」ということです。
その他の動物なら動物園や図鑑なんかで見て知ることができるのですが、竜は架空の幻獣なので、そもそもデッサンもできず、想像で描くしかできないわけです。
その子が何を思い浮かべながら描いたのか分からないし、奥行や立体感を出すために紙を重ねて貼りスタンプするという手法を思いついたのかよく分からないことだらけなのですが、「セオリーを知らない」ということが「意外性」という武器につながることもあるのだと思い知らされました。
ユーザビリティーなど インターフェース理論の中では初めて触った人の感想などは「初心者はすぐに初心者ではなくなるので、簡単には手に入らない」というぐらい貴重なのですが、その発想は頭が固くなった現代人にはダイナミックに見えます。
「上手な人を真似る」という手法で自分をテクニカルに見せていく、「上手な人と比較する」という手法で評価していく現代のデザイン事情。アートとデザインが違うのは常識ですが、それでも個の力を出せるような強い力が欲しいところです。
業務でも少しの違和感も許されず、理解できないものに対して否定・批判されるということが多いのですが、そんな歪みにも似た風潮も突破できるような、個の実現と創造性。
大人になって社会に入ると難しくもなるのですが、いつかそんなわがままな活動もできるといいですね。個人的にやるだけですけど。

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