(C) Ishikawa Oku Laboratory
運命や幸運、偶発性が機械文明の利器によってコントロールできる。
そんな時代に到達したとしたら、どうでしょう?
2008年に東京大学の石川奥研究室によって開発された「勝率100%のじゃんけんロボット」が興味深いです。
このロボットハンド、人間とジャンケンができるのですが、そのジャンケンに絶対負けない・100%勝つという、すごいロボットなのです。
・・・「100%勝つ」って。
マーケティング用のコピーでそんな販促してみたいものですが、それにしても凄すぎます。
たぶんこの時点で多くの人が、「ははぁ、カメラで人間の手を認識して、そこから勝つ手を出しているんだな」と想像していると思います。
フフフ。それはどうかな・・・?
ということで、下の動画を見てください。
動画リンク:http://youtu.be/ZVNnoOcohaU
はい。その通りですね。
人間の手の形を高速カメラによる撮影で認識して、それに合わせてロボットハンドを動かしています。
■センサフュージョン:超高速ロボット
http://www.k2.t.u-tokyo.ac.jp/fusion/Janken/index-j.html
この動画は「バージョン2」。
旧式の「バージョン1」の方では、人間の手が完成してから認識して、それを認識してからロボットが「手」を出しているそうです。
・・・遅出しじゃん! 勝つの決まってるじゃん!
処理能力にもびっくりするところですが、ただ恐ろしいのは、人間の目が認識されるよりも早くロボットハンドが動くので、「遅出し」に気づかないというところです。
ところでこういうのって物理的に摩擦力があってある程度の高速化は望めないような認識があったのですが、これくらいのサイズならそんなことおかまいなしに高速動作するものなんですね。
バージョン2では改良されて、手が完成する前に認識して、同時に手を出すどころか「先出し」になっているそうです。
・・・未来こわすぎるだろ!
認識に要する時間が0.001秒。
完全に勝つ手が出るまでには0.02秒。
そんな能力のようです。
興味深いのは、人間の能力に近づくロボット開発研究というのは多く見るのですが、「人間の能力を超える」という形での開発研究は、ロボット分野では面白いと思いました。
なにより、そのテクノロジーの見せ方。
5年前の研究なので、高速カメラや人間認識などは技術的に今やデジカメなどにも普遍的に搭載されてきていますしコンピューターの処理速度も格段にスペックアップしているのですが、ロボットの能力を「ジャンケンに勝つ」というキャッチ―なコピーと見せ方で立証していることに、技術をこえたデザイン的なセンスを感じます。
ところでこの技術なのですが、5年も経てば、テレビのCMで何度も目にするようになっています。
車のメーカーのCMでよく見る、障害物に反応してブレーキがかかるアレです。なんだか子供の成長を見る感じでジーンってなりますね。
この研究室の哲学的なところは、人間に近いロボットを開発、つまり「人間を目標にすること」ではないところ。
人間の認識能力、人間の運動能力を把握した上で、それを超越することを目指しています。
多くのロボット開発がもっと「人間に近い動作」をめざし、人工知能に「魂」を吹き込むかのように独立した疑似人格を与え、アドリブで動くような人間を創ろうとしています。
夢がある、といえばそれまでなのですが。
そのロボット開発、技術の先になんの意味があるの? 自己満足?
この研究室で行われるものは、予測や学習を必要とせず、リアルタイムフィードバックのみで「確実な結果を実現する」という有用性のあるロボット。
アーティストとデザイナーという相互関係にも似ていますね。
自分がやりたいことと、他人や社会から求められているものは違う。
そんなことを改めて考えさせられました。
コメント